反対尋問ワークショップ2014の報告

1 反対尋問ワークショップの特徴

従来の法廷技術研修を受講した人から、こんな話を聞くことが多い。「研修で教わった反対尋問の技術を実際の事件でやってみても、なかなかうまくいかない」。
これまで行われてきた法廷技術研修では「どのように聞くか」を伝えてきた。しかし、反対尋問が成功するかどうかは「何を聞くか」によって左右されることが多い。反対尋問の獲得目標が適切でなければ、どのように聞いても事実認定者には響かない。そこで、当アカデミーの反対尋問ワークショップは、反対尋問で「何を聞くか」も学んでもらっている。

2 反対尋問ワークショップ2014の概要

今回のワークショップでは、講師が実際に担当した傷害致死事件を題材にした。受講者には2人の証人に対して反対尋問を実演してもらい、講師が講評する。受講者と講師が参加してディスカッションを行い、3度目の反対尋問を実演してもらう。反対尋問は1度しか経験していないという受講生から、10回以上経験しているという受講生まで幅広く集まった。実演では、12人の受講者は2班に分かれ、5人の講師が指導にあたった。

3 実際の裁判と同じ状況での実演

当アカデミーのワークショップでは、講師が検察官役として主尋問を行い、これに対して受講者が反対尋問を行う。これまで行われてきた研修とは違い、検察官調書のとおり証言する証人はいない。証人は、警察官調書とも検察官調書とも異なる証言をする。ときには予想外に弁護側に有利な証言をする。受講者は、証人が核心部分で弁護側に有利な証言をしたことに驚いたようだが、その法廷供述が信用できることを事実認定者に示すために、臨機応変に対応して反対尋問を行った。

4 「何を聞くか」についての講評

受講者は、配布された事件記録を検討し、反対尋問用のメモを提出する。講師が事前に受講者の獲得目標を把握しているのが反対尋問ワークショップの特徴だ。
反対尋問の実演(10分)に対する講評の内容は、その獲得目標を選んだことでなぜうまくいかなかったのかという点にまで及ぶ。獲得目標が適切であれば、それをさらに伝わりやすくするための講評が行われる。多くの受講者が、3度目の反対尋問では獲得目標を変えてチャレンジした。

5 パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、反対尋問の準備、反対尋問メモのあり方について議論になった。受講生の反対尋問メモをいくつか紹介し、どこまでメモに記載しておくかなどについて、講師から改善点が伝えられた。講師が実際の事件で用意していた反対尋問メモを公開して解説を行ったことは受講者からも好評だった。
主尋問のときの基本姿勢について学ぶ機会も設けた。講師による主尋問の際にビデオ撮影していた受講者の様子をスクリーンに映しながら、主尋問のときの基本姿勢について議論した。受講者は、メモを取ることに気をとられて証人の様子を観察していない様子、異議を述べるべきポイントに全く反応しない様子などを目の当たりにする。講師からは、証人を観察するときの視点、適切に異議を述べるための心構えなどが伝えられた。

6 おわりに

受講者からは、「反対尋問について疑問に思っていたことが解消した」「法廷でうまく尋問する自信がついた」といった声をいただいた。2015年にも反対尋問ワークショップの開催を予定している。たくさんの受講者が集まり、法廷で効果的な反対尋問をする法廷弁護士が増えていくことを願っている。

参加者の声

私はこの反対尋問ワークショップを受けながら、夢の中にいるような錯覚に陥った。夢のような機会、としか言いようがないからである。実績のある一流の刑事弁護士たちが、弁護士人生を懸けて取り組む中で完成させた宝石のような手法、技術。それが、惜しげもなく明かされ伝授されるのである。こんな機会は他にない。勝つための戦略、発想、思考過程、技術、ノウハウを自分のものにできる機会など、他にはない。まさに夢である。

ワークショップにはあらかじめ記録を読んで臨む。記録は、実際の刑事事件をもとに作られている。
当日はまず、その場で実演される主尋問を聞く。ここで証人は、突然想定とは違うことを証言し出す。まるで実際の裁判のようだ。我々受講者は、頭が混乱する中、証人を相手に反対尋問を実演する。それを受け、講師陣から、それぞれの尋問のどこをどう改善すべきか、どうすればさらに良くなるか、裁判員に弁護人の意図を伝えるためにはどうしたらよいのか、丁寧で詳細な解説を受ける。自分で自分の尋問の改善点を的確に分析するのはなかなかできることではないから、その意味で非常に役立つ。指摘されて初めて気付かされることも多く勉強になる。
さらにワークショップの中では、効果的な反対尋問をするための準備の仕方や尋問メモの作り方についても、具体的な方法や指針が示される。
そして、お手本として、こういう風に尋問すれば良いという見本の尋問が披露される。その時の感動は表現し難い。思わず聞き入って、身を乗り出してしまう。一つの問いへの答えを聞く度に、ついうなずいて、納得してしまう不思議。これは魔法かと思うが、そうではない。何気なく繰り出されているように聞こえる質問の一つひとつに、計算された意図があり、狙いがあるのだ。種明かしとなる解説を聞いて、唯々感心するしかなかった。

果たして、これは「技術」なのだろうか。私は丸1日のワークショップを終え、そんな疑問を持った。法廷弁護の技術は、単なる小手先のテクニックとは一線を画している。裁判員の心を、裁判官の心を動かすにはどうしたら良いか、弁護人の人生や人格の全てを懸けた試行錯誤そのものに見える。一方で、法廷弁護技術は、やはりあくまでも技術だ。技術であるからには、努力と研鑽によって習得可能なはずである。
確実に言えるのは、人の心を動かし説得する技術があるとすれば、それは一朝一夕に身に付くような薄っぺらなものではないということだろう。裁判員や裁判官に、何を、どう、伝えればよいのか。弁護人の主張を分かってもらうために、必要なことは何か。それを悩み、考え続けなければならないのだと痛感した。無実の人が無罪判決を勝ち取ることは容易ではない。刑事裁判に関わり続ける限り、努力を怠るまいと決意を新たにした。
全国の一人でも多くの弁護人が、このワークショップを受ければいいのにと心から思う。そうしたら、冤罪に苦しむ人が減るはずだ。
私も、次の裁判では無実の人を必ず無罪にする。

TATA反対尋問ワークショップ2014
修了生 鈴木貴子