公判前整理手続ワークショップ2014の報告
1 研修の趣旨
公判前整理手続の制度が導入されてから約9年が経った。連日して集中的に審理を行うことが期待された。現実の運用はどうか。証明予定事実記載書と詳細な予定主張記載書によって裁判所は実質的には事実認定をする。検察官は、証拠に対する弁護人の「一部同意」や「作成の真正は争わない」との意見によって立証の負担が減り、的を絞った立証活動が可能になる。
これまで、この現状に対応するための体系的な文献はなかった。研修が行われてきたが必ずしも効果をあげていない。当アカデミーは、弁護人が公判前整理手続を効果的に活用するための理論と実践を提供することを目的として、公判前整理手続ワークショップを開催した。
2 証拠開示
弁護人の主張を組み立てるために必要な証拠のほとんどは、検察官が取調べを請求する証拠には含まれていない。そこで不可欠になるのが、証拠開示だ。
今回のワークショップでは、まず証拠開示のレクチャーを行った。開示請求の漏れを防ぐための複数の視点や、証拠開示請求書の記載のあり方などを説明した。
受講生からは事前に類型証拠開示請求書を提出してもらい、これをもとにディスカッションを行った。各受講生がどの証拠について開示請求をしたのか一覧にして配布した。一覧表を見て、受講生は開示請求から漏れた証拠に気がつく。講師からは、開示請求から漏れてしまった理由と、漏れを防ぐための具体的視点を提案した。
3 公判前整理手続の実技・講評
公判前整理手続ワークショップの目的の1つは、明確な目的意識を持って公判前整理手続に臨む姿勢を身につけてもらうことだ。目的意識もなく書面を提出し、発言していたのでは、弁護人にとっての公判前整理手続の目的は獲得できない。
まず、講師が裁判官、検察官役となって公判前整理手続を実施し、受講生は弁護人として実技に臨んだ。裁判官役は、「被疑者段階から選任されているのだから現時点である程度の認否ができますよね」「予定主張記載書の提出は1ヶ月後でよいですか」と迫る。受講生は、受け身の姿勢で裁判所の求めに応じていた。
その後、公判前整理手続の基本姿勢についてレクチャーを行い、公判前整理手続での目的意識や、具体的な対応を示した。レクチャーの後には、同じ受講生が弁護人となって再度公判前整理手続の実技を行った。受講者からは一度目の実技のような受け身の姿勢はなくなり、明確な目的意識をもって発言していた。
4 予定主張
受講生への事前アンケートで最もニーズが多かったのが、予定主張であった。予定主張をどの程度具体的にするべきか、どのような点に注意するべきかといった悩みが多く寄せられた。
当日に予定主張記載書を作成してもらい、一部の受講生には予定主張記載書を提出した後の公判前整理手続の実技に取り組んでもらった。
その後に予定主張についてレクチャーを行い、法律上求められている予定主張の範囲、主張するべきかを判断するうえでの考慮要素などを説明した。ニーズが多いテーマだったこともあり、受講者が講師の説明に耳を傾ける様子は真剣そのものだ。
レクチャー後のディスカッションでは、実際の事件で講師が提出した予定主張記載書や、ワークショップの当日に別の講師が作成した予定主張記載書を見てもらった。なぜその事実を記載したのか講師が説明したことで、受講生の理解はさらに深まった。
5 証拠意見・合意書面
争いのない事実に関する証拠は同意するということが、多くの公判前整理手続で行われているようだ。しかし、それは本来の姿ではない。証拠に対する意見の考え方や、同意・不同意による影響についてレクチャーを行った。続けて、合意書面にするのがふさわしい事実や、作成時の留意点について説明した。特に合意書面に馴染みのない受講生にとっては参考になったようだ。
6 裁判員に対する説示
裁判員法では、法令の解釈は裁判官が行い、裁判長が裁判員に対して法令の解釈について判断を示すものとされている。法廷での混乱を防ぐためには、裁判員に対する説示の内容は、公判前整理手続の段階で議論しておくべきだ。
説示についてのレクチャーでは、公判前整理手続で弁護人が提案する際のポイントを説明した。実際に講師が裁判所に提案した説示を見てもらうことで、具体的なイメージを持ってもらえた。
7 これからの公判前整理手続ワークショップに向けて
公判前整理手続の活用方法は実践的な要素を多く含む。公判前整理手続ワークショップは、実例をもとに、実技を交えながら丸1日かけたことで、大きな成果があがった。受講生からは、「公判前整理手続にあたる基準ができた」「(予定主張について)悩んでいたが世界が変わるような思いだった」といった声があがった。
次回の公判前整理手続ワークショップは、教材やディスカッションの内容もブラッシュアップする予定だ。公判前整理手続を効果的に活用したい方には、ぜひ参加してもらいたい。
参加者の声
それまでは,公判前整理手続に臨むとき,漠然とした迷いがありました。
とりあえず,たくさんの証拠の開示を請求しました。とりあえず,依頼人の利益に反するような裁判所の提案に乗らないようにしました。とりあえず,あまり手の内を見せないように予定主張を提出していました。
指標がなかったのです。なんとなく,弁護人として裁判官や検察官と対峙し,依頼人のために最善を尽くそうと思ってやっていただけでした。
このワークショップを受けて,それは大きく変わりました。
このワークショップでは,模擬記録をもとに,事前に起訴状,証明予定事実記載書,請求証拠などが配布されました。その配布された書面を見て,類型証拠開示請求書を起案して提出し,ワークショップ当日を迎えます。
当日は,証拠開示,予定主張,証拠意見など,公判前整理手続の各場面における講義がありました。そして,講義を踏まえ,公判前整理手続の模擬実演や,予定主張の起案などもワークショップ中に行われました。まさに,公判前整理手続における弁護人の役割を「体感」する,参加型,体験型の研修でした。
何よりもよかったのは,公判前整理手続の各場面における基本的な考え方や姿勢について,深く,具体的に学べたことです。
証拠開示はどういう視点で行ったらいいのか。予定主張は何のために書くのか。証拠意見に関する基本的な考え方は。それぞれの手続の,弁護人にとっての目的を学びました。目的達成のための考え方を,極めて具体的に学びました。
それまでの漠然とした迷いが晴れました。
公判前整理手続には明確な戦略が必要であることがはっきりしました。公判前を有効に活用するための指標ができました。明日からは,自分が堂々と公判前を戦えるかもしれないと思わせてくれるような内容でした。
このワークショップを通じて,公判前整理手続は弁護人が主導しなければならないということを学びました。そしてそのための具体的な考え方を学びました。
次は実践です。必ずやこの研修を生かし,依頼人のために公判前整理手続を戦略的に戦っていきたいと思います。
TATA公判前ワークショップ2014
修了生 山本 衛