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設立の辞

一般社団法人東京法廷技術アカデミー 設立の辞

わが国の法律は、刑事裁判が公開の法廷で双方の法律家の口頭弁論と証人の口頭証言を中心に行われなければならないと定めている。しかし、いつの間にか、わが国の法律家は口頭弁論の仕方を忘れ、裁判官は口頭証言よりも供述調書を重用するようになった。証人の声も表情も態度も知らない裁判官が乾いた活字を法廷の外で読むことを、専門家は「事実認定」と呼んで憚らない。法廷は生きた人間の声を聞き、当事者の赤裸々な訴えを吟味する場所ではもはやない。法廷は書類を作り受け渡す場所と化してしまった。実務教育は書類の書き方を教えるだけであり、法廷での立ち居振舞いや尋問の方法が教えられることはない。法律家の道具箱のなかから「法廷技術」という道具は消え去ろうとしている。

しかし、いままさに、この法廷技術滅亡の歴史に終止符が打たれようとしている。裁判員裁判が産声をあげたこのとき、わが国の法廷技術は長い眠りから覚め、新たな歩みを踏み出さねばならないのである。普通の市民である裁判員は調書や意見書を読んで判断することはない。彼らが仕事や家事や学業を休んで法廷に参集するのは、証人や被告人の顔を見、声を聞くためである。法律家の口頭弁論を聞くためである。誘導ばかりの主尋問や行きつ戻りつの要領をえない反対尋問では、事件の真相は何も分からない。複雑な文章を棒読みしたのでは、当事者の訴えはけっして伝わらない。法律家は主尋問によって自分の証人に印象的な物語を語らせなければならない。相手方の証人に対する反対尋問を通じて、その証言が信ずるに足りないことをつぶさに示さなければならない。法律家は、口頭表現によって証拠と理性と正義が自己の勝訴を求めていることを説得的に弁じなければならない。まさに、裁判員裁判の死活は、法律家の法廷技術にかかっているのである。

本校はわが国の法律家の間に法廷技術を普及させ、その技量を向上発展させ、全国津々浦々に、高度の法廷技術を身につけた刑事裁判の専門家たる法律家を十分に行き渡らせることを目的として開校される。この目的を達成するため多くの若い弁護士に法廷技術を研鑽する場を提供する。こうして本校はわが国における刑事司法改革の要を担うのである。

2013年8月

一般社団法人東京法廷技術アカデミー

代表理事 高野 隆

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